『教育にイノベーションを』−安城学園100年の歴史と展望−
第2章 刻苦の学園づくり - 苦難の女専設立 #4 (第89話)
公開日 2012/08/21
法人基本金の5万円はまさに血のにじむような努力で準備した。それが、更に5万円の上乗せ要求…。これ以上どうなろう、との絶望感が走った。
「これはもう出願をあきらめるより仕方がない」
だいから事態を知らされた三蔵はすっかり悲観した。
―もう手の打ちようがない。
さすがのだいも、万策尽きた思いで途方に暮れた。
だが、やはり、だいは“打たれ強い女性”だった。挫折、諦めといった感情になだれ込むようなことはなかった。
―ここでくじけては、これまでの努力が水の泡になる。
なんとしても“希望の糸”を紡ぎたかった。
自分には、母子2人で寄り添うしかない逆境の中、小さい時から、母とともに幾多の苦難に堪え抜いてきた“意地”がある。母はその“意地”を育んでくれた…。
その母は大正8(1919)年12月、わが子の営む学校が甲種中等程度実業学校と本格的な学校になったのを見届けながら他界していた。だいは、その亡き母の面影をまぶたに浮かべながら、この絶体絶命の危機をどう切り抜けたらいいか、瞑想した。
経済的な危機は若い時にもあった。上京し勉学を始めた矢先、学資借用の当てがはずれてしまった。国元の母からは毎月米と味噌と梅干が送られてくるが、途絶した学資を自らまかなうためにさまざまな“アルバイト”に携わることになった。それらが走馬灯のように想起された。
肉体労働もいとわず、実入りがよいというので、男装までして男勝りに人力車の車夫もした。だが、その男装をお客に見抜かれたことも…。
それまで追憶の糸をたぐっただいは、はっと気づいた。
―そうだ。武部男爵にお願いしてみよう…。
それは、一縷(いちる)の望みにすがろうとする直感的なひらめきだった。
(つづく)
※ 文中敬称略
※ 文中敬称略