学校法人安城学園
『教育にイノベーションを』−安城学園100年の歴史と展望−
第2章 刻苦の学園づくり - 教育方針の確立 #2 (第77話)
公開日 2012/08/02
大正時代の修身教科書(女性の能力開発について新しい思想が見える)「十里の旅の第一歩
百里の旅の第一歩
同じ一歩でも覚悟が違う

三笠山に登る第一歩
富士山に登る第一歩
同じ一歩でも覚悟が違う

どこまで行く積もりか?
どこまで登る積もりか?

目標がその日その日を支配する」

 教室内で寺部三蔵が一句一句を噛みしめるように朗唱していた。

「これは、いつもよく紹介する後藤静香(ごとうせいこう)さんの詩で、『第一歩』という題のものです。私たちは、事に当たるにもしっかりした目標を持って覚悟してかからねばなりません」

 解説を加える三蔵は学科では修身科を担当していた。
 後藤静香は社会教育家、社会運動家として修養団体・希望社を主宰し、『希望』『のぞみ』『光の声』などいくつかの啓発的な内容の修養雑誌を発行した。これらの雑誌には、格言や偉人の伝記、寓話などをわかりやすく解説し、男女とも修養して、よりよい人間、社会に有益な人間にならねばならないと説いた。代表作とされる詩集・格言集『権威』の発行は100万部にも及んだといわれ、全国の青少年をはじめ教育者や労働者にも愛読された。現代においても、長嶋茂雄や松坂大輔など彼の残した格言を愛する人は多いと言われるが、三蔵もまた、この後藤の思想に共感し、修身科の授業にもその言葉をよく引用して指導していた。

「この『女子修身訓』は、教育行政に手腕を発揮され、京都帝大総長にもなられた沢柳政太郎先生が、新しい自由主義教育運動を唱えられて著されたものですが、能力の開発についてこう書かれてあります」

 三蔵は、居並ぶ生徒たちに鋭く視線を流しながら、修身の教科書を取り上げた。
(つづく)
※ 文中敬称略
 
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